未来を生きる君たちへ (試写会)
LOVE & PEACE
公式サイト http://www.mirai-ikiru.jp
8月13日公開
米アカデミー賞とゴールデングローブ賞の最優秀外国語映画賞受賞作
監督: スサンネ・ビア 「ある愛の風景」 「アフター・ウェディング」
医師アントン(ミカエル・パーシュブラント)は、妻子と別居中で、デンマークとアフリカの難民キャンプを行き来する生活を送っていた。彼の長男エリアス(マークス・リーゴード)は、学校で執拗ないじめを受けていたが、彼のクラスに転校してきたクリスチャン(ヴィリアム・ユンク・ニールセン)は、エリアスをいじめていたソフスを殴り倒し、ナイフで脅した。暴力に暴力で仕返しをする事の無意味を説くアントンだが、クリスチャンは納得がいかない。
原題は“Haevnen”で、意味は「復讐」だそうです。
クリスチャンやエリアス、アントンの言動が、単純に○とかXとか決められない、ジレンマと苦悩を描いています。
「ある愛の風景」「アフター・ウェディング」と同じく、いい作品でした。
スサンネ・ビア監督の作品は、好きです。
どれも社会問題を扱いながら、家族愛を感じる作品ですよね。
アントンは難民キャンプで医療活動をしています。妻子とは、彼の浮気が原因で別居中。父親を慕うエリアスは、両親がよりを戻して欲しいと願っていますし、アントン自身も、妻とやり直したいと思っていますが、看護師の妻マリアン(トリーネ・ディアホルム)は、まだ夫を許す気にはなれません。
一方クリスチャンは、母親が癌で亡くなったばかり。父方の祖母の家に、祖母と父親(ウルリッヒ・トムセン)と一緒に暮らす事になりました。しかしクリスチャンは、父親は自分を愛していないと思っていて、父には反抗してばかり。
家庭にそれぞれの問題を抱えている少年二人が、学校で出会います。二人はたまたま誕生日が一緒なこともあり、親しくなります。
いじめにあっているエリアスは、やり返すことはしませんが、転校が多かったらしいクリスチャンは、やられっぱなしでいては身を守れず、攻撃は最大の防御と考えています。弱虫だと思われたら、ずっといじめにあうからです。
クリスチャンは転校初日に、いじめられているエリアスを目にし、巻き添えを食らいます。
翌日また、トイレでソフスがエリアスをいじめようとしているのを目撃し、ソフスを殴り倒しナイフを突きつけて、もういじめるなと脅します。
アントンが息子2人とクリスチャンを連れて出かけた帰り、次男のモーテンがよその子と公園でケンカになり、割って入ったアントンは、駆け寄って来た相手の子の父親に、理由も訊かれずに殴られてしまいます。
エリアスとアントンが、その男ラースの職場を突き止めたと聞いたアントンは、子供たちとラースの職場を訪れ、殴った理由を問いただしますが、ラースは再びアントンを殴ります。アントンは決して手を出すことなく、屈しない姿を子供たちに見せ、帰り道、殴るしか能のない愚か者で、殴り返す価値のない人間だとラースを評しますが、クリスチャンは報復しなかったアントンに納得がいきません。
祖父の作業場で大量の火薬を見つけたクリスチャンは、爆弾を作ってラースに仕返ししようと、エリアスに持ちかけます。
アントン一家はスウェーデン人で、デンマーク語の発音がよくできなかったりするのも、いじめの要因のひとつであるようです。
学校でのいじめは、どうするのが良いのでしょうかねえ。平和的に解決できれる方法があれば良いけど、親がやめろといっても、子供がやめるかどうかはわからないし。いじめっ子の親が、とんでもなく非常識な場合もあるだろうし。いじめられたくないから、いじめっ子の仲間になるのもいるし。
様々なケースがあって、簡単に答えはでませんよねえ。
でも本当に強い奴は、自分より弱いものをいじめたりしない。これはどこでも、同じではないかしら。
クリスチャンはラースに仕返ししようとしますが、仕返しの方法が行き過ぎですね。これが思わぬ結果を招き、クリスチャンも自分の行為を反省します。
屋上でのクリスチャンには、泣けました。突っ張って強がっていても、まだ子供なのよねえ。
クリスチャンとエリアスの友情はよかったですね。たとえ親でも、友情を大事にして、本当の事を言わない。良し悪しは別として、こういう事ってあるでしょう。
アントンのいる難民キャンプには、おなかを切り裂かれた妊婦が何度も運ばれてきます。胎児が男か女かを賭ける“ビッグマン”と呼ばれる男の仕業です。ある日ビッグマンが、脚の治療して欲しいとやってきます。アントンは医師の勤めだからと、彼を治療します。
罪を憎んで人を憎まずといいますが、現実にはなかなか難しいですよね。法がきちんと機能している国家や場所であれば、ビッグマンのような男は、とっくに死刑になっているでしょうけど。
ビッグマンの治療を続けていたアントンですが、ビッグマンの死者への冒涜的な言葉にキレてしまいます。
アントンも、自分の苦悩を誰にも話せず、やりきれない思いでいっぱいです。
赦しか復讐か。
ジレンマに陥り、苦悩する難しい問題です。
報復の連鎖は避けたいけれど、相手が攻撃をやめる気が全くなかったら...
アントンの乗るトラックを見送る、笑顔で走る無邪気なアフリカの子供達が、何度か映ります。大人になっても、この笑顔のままでいられる社会であって欲しいと願うばかりです。
生意気なヴィリアム・ユンク・ニールセンくん、イケメンになりそうで良いですねえ。
父親役のウルリッヒ・トムセンは、「ある愛の風景」の主役の人ですね。
(鑑賞日8月4日)
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非暴力が全てを解決するというには、性善説なら成立するのですが、残念ながら世界はそうなってない訳で。
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投稿: ノラネコ | 2011年8月26日 (金) 21:23
★ノラネコさん
どこまでが必要な暴力なのか、許される暴力なのか、線引きはとても難しいですよね。
現実を少しでも理想に近づけるにはどうしたらよいのかも、未来を生きる子供達に考えてほしい問題ですね。
投稿: 風子 | 2011年8月27日 (土) 23:11
今晩は~。
やっと見ました。
素晴らしい作品でした。
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本当に感激しました。
設定に無理がなくて、映画に入っていけました。
強いて言えば車があれだけぶっ飛ぶ爆弾を作ったところが、
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投稿: 小米花 | 2011年9月 9日 (金) 22:19
★小米花さん
スサンネ・ビア監督は、優れた才能の持ち主だと思います。
どの作品も、秀作だと思いました。
投稿: 風子 | 2011年9月10日 (土) 09:12
今回もずっしりと重くのしかかってきたのですが、いろんな要素を詰め込んだかなああと感じました。移民のあたりのところが、ちょっとわかりにくかったです。
いつも眉間にしわが寄ってしまうスサンネ作品ですが、次回作はコメディとか。楽しみです。
投稿: sakurai | 2011年10月12日 (水) 19:21
★sakuraiさん
思いテーマですが、この監督はどれも希望を感じさせるラストで好きです。
次はどんなタイプのコメディーか、楽しみですね。
投稿: 風子 | 2011年10月12日 (水) 23:37