それでも夜は明ける
家畜ではなく平等であるべき同じ人間
公式サイト http://yo-akeru.gaga.ne.jp
原作はソロモン・ノーサップが1853年に出版した回顧録。
監督: スティーヴ・マックィーン 「SHAME-シェイムー」
1841年、ニューヨークに暮らす音楽家のソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)は生まれながらの自由黒人。妻子とともに、白人を含む多くの友人に囲まれ、幸せに暮らしていた。だがある日、ワシントンでの2週間の興行に参加した彼は、興行主に騙され拉致された末、奴隷市場に送られてしまう。自分は自由黒人だとどれだけ必死に訴えようが、無駄な抵抗だと悟るのに時間はいらなかった。そして名前も人間としての尊厳も奪われ、奴隷として南部の農園主フォード(ベネディクト・カンバーバッチ)に売られる。
黒人奴隷がどのように扱われていたかは、これまでにも見ていますが、自由黒人を誘拐して売り飛ばしていたのは初めて知りました。
1807年に海外からの黒人輸入が禁止になってから、こういう犯罪が増えたのだとか。
もともと奴隷だった人より、そうでなかったのに奴隷にされた人には、信じられない生活だったでしょうね。
奴隷以外の身分になったことはない人はどう生活していたのか、ソロモンが首に縄をかけられたまま何時間も放置されているのに、まったく目に入らないかのように遊んでいる子供たちの様子が、それを語っている。
なんたって、「大統領の執事の涙」の1920年代ですら、南部では白人が黒人を殺しても、罪に問われなかった。ただ黒人であるだけで、命の危険があった。
そして、黒人に味方する白人にも身の危険があったので、公言はなかなかできない。
映画を見る前から、原作者はどうやって奴隷の身分から解放されたのかが、気になっていました。黒人が訴えても無理だと思うので、誰か白人がかかわっているとは予想していました。
妻子と幸せに暮らしていたソロモン。
だまされて奴隷商人に売られる。
ポール・ジアマッティがいかにも憎らしくていいわ。
プラットと名前を変えられたソロモンを買ったのは、農園主フォード。
製材の仕事です。
ソロモンを気に入ってよくしてくれるけど、彼の身分証明に手を貸そうとまではしてくれない。
ソロモンが彼を目の敵にする白人の大工ティビッツ(ポール・ダノ)に抵抗し反撃した事から、ソロモンの身の安全のためと借金返済を兼ねて、広大な綿花畑を持つ農園主エップス(マイケル・ファスベンダー)に、ソロモンを売ります。
理不尽な嫌がらせを繰り返す、ポール・ダノもうまかった。
好きな俳優です。
フォードと違い、奴隷を非道に扱うエップス。
どんな事をされても、どんな命令をされても、生きているためには従わざるを得ないソロモン。
ファスベンダーが、暴力的だけど弱さや複雑な感情を持つ役を、見事に演じていました。
エップスは妻がいるけれど、若い奴隷のパッツィー(ルピタ・ニョンゴ)に執着する。
そのせいでエップスの妻から、目の敵にされるパッツィー。
奴隷の中には、農園主の妻になった者もいる。
しかし将来に何の希望ももてないパッツィーは、ソロモンに自分を殺して欲しいと頼みます。
でも、ソロモンにはそんなことはできない。
エップスの彼女に対する仕打ちも、見ているしかない。
同じ奴隷のパッツィーを鞭打つソロモンの、心情も辛く悲しい。
妻子に会うためになんとか生きていようと、苛酷な日々を耐え続けるソロモン。
信じた白人に裏切られたりもしましたが、やっと信頼できそうな人と出会います。
エップス邸に来たカナダ人で、奴隷制度に反対する意見を持つバス(ブラッド・ピット)。
ニューヨークへ手紙を出して欲しいとソロモンに頼まれますが、彼にとってもソロモンを手助けすることはとてもリスキー。
誰でも他人より自分の身を優先しますからね。
手を貸すとは即答できない。
時代を考えると、手紙を出したバスだけでなく、ニューヨークからわざわざエップス邸まで来てくれた友人もすごいわよね。
遠路はるばるソロモンのために来てくれる白人の友人がいたなんて、ソロモンは運が良かった。
映画の本筋とは関係はないけれど、ソロモンの妻子は、12年間どうやって生活していたのだろうと、それが気になりました。
(鑑賞日3月14日)
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TBありがとうございます。
ポスターを見て、てっきり走って逃げる=脱走するのかと勘違いしていました。
フォードも、ティビッツも、エップスも、ついでにバスも、弱いところを持ってるように表現したのはなぜなんでしょう?
投稿: すぷーきー | 2014年4月 5日 (土) 22:56
★すぷーきーさん
人間て、誰でも強さと弱さを持っていると思います。
投稿: 風子 | 2014年4月 6日 (日) 14:15
パンフによると、妻は料理人としてかなりの腕前だったらしく、それで暮らしていたとありました。
私も見てるとき、そこが気になりました。
と、この後の人生もまた、見てみたいですよね。
そこも映画に十分なりそうですわ。
ポール・ダノも、こんな役ばっかですが、また似合うのよねえ~。
投稿: sakurai | 2014年5月29日 (木) 10:55
★sakuraiさん
奥さんは働いていたんですね。
あの時代、突然夫がいなくなって大変だったでしょうね。
ポール・ダノって、彼にしか出せない雰囲気がありますよね。
投稿: 風子 | 2014年5月29日 (木) 12:16
こちらにも感想を
自由黒人という立場の黒人がいたというのはこの映画を観るまで知りませんでした。
こういう自国の恥ずべき歴史を自分たちの手でしっかり暴いて作るのが凄いです
自分の中にある良心と、でも、良心のままに行動すると自分の生命が危なくなるというジレンマを見事に描いていました
みんなが少しずつ、リスクの伴う行動を勇敢に成し遂げた繰り返しで、オバマさんまで続いているんだと思いました
今から振り返ると、笑ってしまうような理不尽な時代ですが、これまでに成し遂げてきたことの偉大さと長い道のりがよく分かります
投稿: ann | 2014年6月 1日 (日) 00:20
★annさん
長い道のりでも、過去を知って、新しい未来を築かないといけませんね。
投稿: 風子 | 2014年6月 1日 (日) 14:39