サウルの息子
アウシュヴィッツの日常
公式サイト http://www.finefilms.co.jp/saul
第68回 カンヌ国際映画祭 グランプリ受賞作
1944年10月、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所。ここの収容されているハンガリー系ユダヤ人のサウルは、移送されてきた同胞をガス室へと送り込み、その死体処理も行う“ゾンダーコマンド”として働いていた。ある日サウルは、ガス室で生き残った息子とおぼしき少年を発見する。少年はサウルの目の前ですぐさま殺されてしまうのだが、サウルはなんとかユダヤ教の聖職者ラビを捜し出し、ユダヤ教の教義にのっとって埋葬しようと、収容所内を奔走する。そんな中、ゾンダーコマンド達の間には、収容所脱走計画が秘密裏に進んでいた。
第73回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞を受賞し、
米アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされているハンガリー映画。
監督のネメシュ・ラースローは、ハンガリー生まれのユダヤ人で38歳。
“ゾンダーコマンド”たちも、数か月働かされた後で殺されたそうです。
大量虐殺の証拠を消すためらしい。
殺しちゃえば、証人はいないものね。
映像はサウルに焦点を当て、死体処理など、収容所の様子はわざとぼかしてあります。
この撮り方がうまいですね。
日常となっている仕事を、直視しないようにしているサウルの心情のようでもありました。
ぼかされていても、その無残さや、死体が物として扱われている事がわかります。見ているのが辛かったです。
人間としての尊厳などない場所。
殺されるとは知らずに、ガス室に送り込まれるユダヤ人たち。
彼らが苦しみ死んでいくのを聞いている、サウルたち“ゾンダーコマンド”。
自分たちもいずれ殺されるとわかっていて、感情を殺して日々仕事をこなしている。
ガス室の清掃も彼らの担当。
死体は焼却され、その灰は川に捨てられる。それらの仕事も担当。
ユダヤ教では、火葬は死者が復活できないとして禁じられているって、知りませんでしたよ。これを知らないと、サウルがなぜ正式な埋葬をとこだわるのかわかりませんよね。
ある日ガス室で死なずに息のある少年がいた。しかしその少年は軍医に殺されてしまう。
そして解剖されてから焼却されると聞いたサウルは、なんとか解剖させずに、ラビに追悼の祈りをしてもらって埋葬しようとします。
しかし、どうも少年はサウルの息子ではないようですね。
仲間が、「お前には息子はいないだろ」と言っているし。
でもそれは重要ではないんですね。
少年を埋葬することは、彼にとっての反乱だったのか、人間としての主張だったのか。
とにかくアウシュヴィッツの実態を突き付けられて、辛い映画でした。
サウルが唯一顔に表情を出す場面がありますが、それもむなしく...
(鑑賞日2月1日)
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TBありがとうございます。
そうか、ユダヤ教では火葬は禁止されていたんですね。それでサウルが埋葬にこだわったのに納得します。
あの少年はサウルのが、同胞をガス室に送り、その死体を処理している任務に就いていつことへの懺悔の対象だったのでしょうね。あの子を正しく埋葬することで自分の魂が救われると思ったんじゃないでしょうか。
終盤の笑顔がそれを物語っていた気がします。
投稿: ミス・マープル | 2016年4月18日 (月) 18:19
★ミス・マープルさん
子供の復活に未来を託したかったのかもしれないなあ、
とも思いました。
投稿: 風子 | 2016年4月18日 (月) 22:19